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2010年04月11日 Archive

夜の夢

  • Posted by: Hachiro
  • 2010-04-11 Sun 08:45:51
  • 穂高



(前穂北尾根八峰より)


先日行ってきた北尾根よりの映像をアップします。

日没後の薄明の空が徐々にその色を変えていきます。
やがてひとつふたつと星が煌めき、シリウスなど冬の星々が西の空を賑わしはじめます。
その主役である「オリオン座」が奥穂の稜線に沈むと、
昇ってきた月齢19の月が、未だ冬のよそおいの穂高を青白く浮かび上がらせてきました。
稜線から舞い上がる雪煙が涸沢の雪面に影をゆらしています。
それはまるで穂高が早春のまどろみにみている夢のかたちのようです。
夜明けの薄明が始まると星や月の影が少しずつうすれてゆき、
月が天頂ちかく昇るころ、山の雪肌はモルゲンロートに輝きはじめたのでした。



昨年から、これまでビデオでは困難だった夜の世界を撮っています。
それは近年の「デジタル一眼レフカメラ」の高感度化が可能とした撮影手法なのですが、
スチールカメラで連続して撮った画像をつなげることで動画としています。
これは撮った画像をパソコンで処理することでようやく映像として見られるようになります。
撮ることそのものに対しては、撮影地へ行くのにヘロヘロになったり酷寒の現場で凍えたり、それなりの苦労はあってもまぁ耐えられる。
ただどうしようもなく消耗するのは、撮ったものを映像化するデスクワークでありまして、パソコンの知識に疎い僕は自分のやりたいことがなかなか思うようにできず身もだえしてしまいます。
正直いってこの映像も元のクオリティはもっと高いはずなのですが今の僕のスキルではここまで。
さらなる精進が必要なようです。


「夜明け」というものを“夜”から“朝”までつぶさに眺めたことがあります。
それは遭難救助に出かけて前穂北尾根でやむを得ずピバークとなったときのことで、もう初雪も近い9月半ば頃のことでした。
冷たい雨の中で行動不能となった遭難者達を何とか見つけることはできたものの、防寒具やツェルトを彼等に与えた我々は着の身着のまま狭いテラスで座ったまま夜を迎えることとなったのです。
寒さにまんじりともせずいるうちに、気がつけば雨はすっかり上がり満天の星空。
月はなく、足下は前穂東壁がすっぱりと切れ落ちた漆黒の闇で、何やら吸い込まれそうな気さえしてきます。
冷え込みがだんだんと厳しくなるなか、そうそう体勢を変えるわけにもゆかずじっとしていると、脇にいる相棒の温もりがヤッケ越しにほのかに伝わってきました。
そうやって過ごした夜はほんとうに長かった。
何度も時計に目をおとしながら、それでもぼぉっと星空をながめていました。
するとだんだん自分が岩壁の中にいるという感覚がなくなってきて、まるで宙に浮いているような、串田さんいうところの“空というより宇宙と向かい合っている気持ち”みたいになったのです。
星々の煌めく夜空の色が黒からやがて群青色を帯びはじめ、少しずつ少しずつ星の数が減ってゆく。
それと反するように東の地平がほのかに色づきはじめてきます。
その、まるで時間が止まったかのようななかで、それでも確実に夜が明けてゆくのをただただ見つめつづけたのでした。
そしてついに地平線からの御来光を拝んだのは、収容にきてくれたヘリにぶら下がりながらのことでした。
(「光の五線譜」ライナーノートより)


上記は2006年に作ったDVDに添えた文章ですが、
ずっとこの「夜~朝」へのうつろいを表現したいと思っていました。
今回の映像はそのひとつのかたちということです。



ー世界はこの彩った光を地球に向かって投げかけながら、何かを知らせているー    串田孫一

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