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日暈

  • Posted by: Hachiro
  • 2015-05-07 Thu 16:07:41
  • 穂高
大型連休は昨日まで、今日からまた普段の生活が始まったという方が多いと思います。

しかし穂高では連休中に4名の方が命を落とされ、日常の暮らしに戻られることはありませんでした。



150506 日暈
(2014/05/06 「日暈」 11:40am)




先日も記しましたが、どの遭難も遠因にこの連休の特徴であった「寡雪」と「高温」があったのではないかと考えます。

今年はこの時期としてはちょっと考えられないくらい雪が少なく、普段であれば岩と雪のミックスとなるルートの多くが完全にドライコンディションとなり、アイゼンを必要とする場所とそうでない場所とが極端に分かれてしまっている状態でした。

4月30日の涸沢岳西尾根の事故はそうした「雪が無さ過ぎたがゆえ」とも思われるのです。
現場は蒲田富士からの下りの古いフィックスロープが残置してある岩稜付近。
山荘から涸沢岳稜線、蒲田富士と全く雪を踏まない下降路にあって事故現場付近にはわずかな残雪があったそうです。
おそらくその雪を避けようと本来のルートと反対のブドウ谷側を巻こうとして事故に至ったのではないかと推測されます。
遭難された方はアイゼンを装着していなかったとのことですが、それがミスであったともぼくには言えません。
山荘からあそこまでアイゼンをつけずに降りたのなら、おそらくそのほんのわずかの雪のためにわざわざアイゼンをつけるかどうか自分としてもわからないです。

そもそも例年であればこの時期の涸沢岳西尾根をアイゼンをつけずに降りるなんてことはあり得ないのですから。


ある年の6月に西穂〜奥穂縦走をやった折、天狗のコルからジャンへの登りで前後は全く雪が無いのに急峻な雪のルンゼの横断に4、5回もアイゼンの脱着を強いられてウンザリしたことがあります。
ただあの時は他に選択肢がなかったからそうしたのであって、もしも脇に巻けるような岩稜があればそちらを行ったかもしません。


そうした雪と岩との状況 ーつまりルートのほんの一部に雪があって前後はまるで夏と同様ー が象徴的であったのが山荘から奥穂への最初の岩場です。



150503 岩峰
(2015/05/02 9:20am)



奥穂へと登ろうとされる多くの方が、このハシゴ場を見て「アイゼンをつけて行くかどうか?」ということを考えられたと思います。

通常のルートはハシゴを登って右へトラバースし、雪壁に取り付きそのまま雪の上を直登します。
そして途中で安定してアイゼンを脱着出来るような場所もないので、ほとんどの方はアイゼンを着けたまま岩場とハシゴを登って行かれました。(ぼくたち小屋番やガイドさんも当然そうして登り降りしました)

ところが登りはともかく下降時にあの急峻な雪壁をクライムダウンするには相応の技術が必要ですし、何よりもオソロシイ…
おそらくそういう理由から、少なくはない数の方が雪壁左側の岩場にルートを求めていました。
その岩場は夏のルートでもなく(実際に行ってみればわかるのですが)、かなりボロボロの脆い岩場です。
それが雪にパッキングもされておらず、今年の気温変化の激しい状況下ではさらに不安定さが増しています。
そんな岩場を下ろうとするとかなりの頻度で石を落としてしまいます。

もしも周囲に全く人が居ないのならそれはそれでアリかもしれません。
基本的にはぼくは登山という行為に規制や制限はなじまないと思いますし、誰がどのルートから頂に立とうが自由であるとも思います。
ただしそれは他人に迷惑をかけないというのが前提であり、いわんや人の命を危険にさらしてなどとは論外です。

連休の最中にルート上に多くの登山者がいるであろうことは容易に想像が出来るはずですし、ハシゴに取り付いている人に落石を落としてしまえばどんな重大な結果となるのかは明らかです。
(写真からも岩峰直下の人達とハシゴ場付近の人達との位置関係の危うさが見て取れると思います)


実際、連休中には幾度も落石が発生しました。
でも奇跡的に人に致命傷を与えることはなく小屋の屋根にいくつか穴を空けただけで済んだのは幸運でした。

なので、もしも山荘からのハシゴ場付近をどうしても自由なラインで登りたいと申される方がおられましたなら、ぜひ2月か3月の厳冬期をオススメします。
その時期なら岩は硬く凍りついて落石も起きにくいですし小屋も雪に埋まっていてダメージもありませんので。




さて、そうした例年にも増して不安定であった岩の状態の中、
5月3日には前穂北尾根で落石による死亡事故が発生してしまいました。
しかもそれは先行パーティの人工落石によるものであると聞いています。


150503_連休_4
(2015/05/03 レスキュー中の長野県警ヘリ)



事故のあった北尾根四峰は岩が脆く、過去にぼくは目の前で人の乗った岩が崩れる遭難を目撃したことがあります。
その事故もえらく気温の上がった5月のある日のことでした。




今年、小屋開けのために入山したのが先月18日で、以来一度も雪が降っていません。
こんな年は初めてです。

天候の悪化した5月4日は終日雨でした。
翌5日はようやく気温が平年並みに戻って朝には−5℃ほどと少し寒い朝を迎えていました。
山荘に泊られたそのふたり連れの方は、朝食を済ませてしばらくした午前7時頃に涸沢へ向けて発たれたようです。

当時の雪の状態は前日の水分が凍結し、その結果雪面はほとんど氷に近いような硬さとなっていました。
山荘からあずき沢を50mほど下ると斜度がさらに増します。
その地点でスリップしたらしいおふたりは、そのまま600m氷のような雪面を滑落してお亡くなりになりました。

あずき沢での滑落事故が死亡にまで至るのは5月よりも6月の方が多い気がします。
それは6月の方が雪面が堅くなることが多く滑落時のスピードが落ちないからではないかと。
しかし先日の5日朝の雪面はアイゼンのツァッケがほとんど刺さらないほど硬かったです。
それは通常の5月にはちょっと考えられないくらいに。

実はその日、あろうことかチェーンアイゼンで登って来ていた韓国の方もいて、そのアイゼンでは危険だから雪の緩むまで下山を見合わせるようにとお願いしていました。
そして10時頃にはその装備であっても何とか下山できるほどに雪は緩んだのです。

あのおふたりにも声をかけることが出来ていたなら… と思わずにはいられません。




私たちがご用意させていただいた食事を食べていただき、
時に何気ない会話をも交わした方が、
その数時間後や数日後に帰らぬ人となってしまうことがあるという事実に、
小屋番である我々は心に何ともいえないものを抱きます。


こうして遭難の原因や要因を考えてみたところで、それは結局後だしジャンケンであって意味などないのかもしれません。
こざかしい人間の経験や知恵など自然の厳しさの前では無に等しい。

たかが季節の歩みが多少早いくらいのことは、きっと山にとっては何の不自然さもないのでしょう。

それに世の多数の方が「なぜわざわざあんな危険な場所に行くのか?」と批難を交えた思いを抱かれているであろうことも承知しています。

しかしそれでも、大いなる自然の中に身を置き、岩を攀じり雪を踏むことに生の歓びを感じとる者の端くれとして、山での死に対して「なぜ」ということを考えざるをえないのです。



この文章を綴りながら、先ほどふと窓の外を見るとなんと雪が舞い始めました。
見る見る内に結構な降りとなってきたのでこれは積るかもしれません。




亡くなられた方々のご冥福をお祈りいたします。


























































Comments: 9

穂高に惚れ込んでいる者です URL 2015-05-08 Fri 21:15:47

毎年穂高を訪れ、山と共にあるひと時を楽しんでいます。
街にいるときは、ハチさんの画像で穂高にいるがごとき気持ちを共有させていただいております。
今年も長いシーズンが始まりました。いろいろ大変なこともあろうかと思いますが、変わらず穂高の新たな移りゆく日々をお伝えください。
楽しもにしております。

5/7奥穂に登ったちょんまげ URL 2015-05-08 Fri 17:00:41

いつも拝読しております。

今年こそはと奥穂に挑戦し、事前に集めた情報では融雪で岩場に入ると落石を起こすとか屋根に穴が空いたとかいうのも見ておりましたので、落石は起こしちゃならんと雪壁には迷う事なく向かったのですが、昼過ぎの緩んだ雪の影響で落ちそうになり、挙句に梯子へのルートを間違って直下の×印の岩に向けてロッククライミングしてしまった大バカ者です。
(間違った先でも落石は起こしませんでしたので勘弁してください)

その時にヘリポートから私が安全な場所まで降りてくるのをじっと見守っていてくださった水色のTシャツの方がいらっしゃいました。

宿泊客なのか小屋番の方なのか解りませんでしたが、この場をお借りして御礼申し上げます。


私の下降後に、登りすらも危うかった方が帰ってきたのですが心配で下から見守っていた所、やはり雪壁を見て怖かったのでしょう、少し迷ってから岩場に入ってどうしようもなくなってから雪壁に取り付いて下降しておりました。

その方も本日無事にバスで帰られる姿を確認しましたので、事故が起きずに済んで良かったです。

こちらのブログには毎年かなりお世話になっており、後出しジャンケンのおかげで私は落石も事故も起こさずに降りてこれたと思っております。
いつもありがとうございます。

安曇野市在住 URL 2015-05-08 Fri 12:42:41

宮田さん、いつも心のこもった記事をありがとうございます。
その場の状況も分からずに、後から心無いコメントを投げ掛けてくる人も居るようですが、今後も我々登山者の安全の為、厳しいご意見や注意喚起を続けていっていただけると有難いです。
私自身も、自然の変化に圧倒され、後だしジャンケン的後悔の連続です。
しかし、それが有るからこそ、またチャレンジしようと思うのかも知れません。
色々な危険やトラブルを避ける為、今回のような事例を記事にしてもらえる事は、大いに役立っています。
どうぞ心を痛める事なく、感じた事を実直に記事にしていただけると幸いです。
今後ともどうぞよろしくお願いします。

sugi URL 2015-05-08 Fri 12:41:31

穂高山荘に5日、テント泊させてもらった者です。そして6日に奥穂~前穂縦走して無事、下山しました。
テントなんですが、夕食がおいしいのでお願いしてます。これを楽しみにきます。
ただ、のろまなカメなので時間に遅れ迷惑をかけてすみません。
夕食を食べると山荘の人たちの気配りや暖かいもてなしをしてくれてしると伝わってきて、いつも有難うと感謝しています。
山では水1杯でも貴重だと感じます。
夕食で暖かいお茶、暖かいスープを頂き、登山で疲れ切った時だけに幸せな思いを感じる時間です。

事故の話は当然、山荘で話題になりました。
でも詳しい状況が分からないので想像で話するしかありませんでした。
私自身”なんで、そんな所で?”と疑問な思いでした。
今回、このブログを見て状況が分かり、とてもよかったと思いました。
山は自然相手なのでこうすれば事故が起きないという正解はないと思ってします。
その状況において自己判断して危険回避、もしくはリスクの少ない登山方法を決め進むしかないと思います。
その判断材料として自分にとって、こうした報告は貴重な財産となります。
すべて経験できるわけないのだから。

今回、危険と思いながらも残雪の吊尾根を通る事は自分の一つの目標でした。
装備、敗退方法、非常時対策を十分考え臨みましたが、行く直前まで不安でした。
それでも一歩、足を踏み入れないと状況は分からないし、そこに降り立ったものにしか安全にいけるか判断できない事の方が多いように思います。
そして無事、下山できた事に感謝し、この経験が次への危険回避の判断材料になると信じています。

拙い文章で自分の述べたい事が伝わるか不安ですが、Hachiroさんに自分には貴重な意味のあるブログ内容だった事を伝えたくコメントさせて頂きました。

URL 2015-05-08 Fri 10:39:01

横から失礼します
4日~5日で宿泊させて頂いた者です。

韓国の軽装の方々には私もびっくりしましたが、
(小屋内を短パンで過ごされて居たので印象に残ってました)
小屋番さんが雪が緩むまで、下山を止められていたんですね。
その行為が彼等を救ったんだと思います。

亡くなった方々は残念ですが、
人の多い穂高で小屋の仕事をしつつ、全ての人に目を配る事は不可能の様に思います。
それでも、岐阜県警のパトロールの方々含めて、かなりの方々に声掛けをされてましたよ
やはり、
気づいた時に声を掛ける、、、事しか出来ないですよね。
(当日私も、間違い尾根に入って行こうとしたパーティーに声掛けさせてもらいました)




亡くなったお二人は朝食の味噌汁を隣に座った我々にも取り分けて下さった、優しい方々でした。
ご冥福を祈るばかりです



海月 URL 2015-05-08 Fri 08:50:28

前述のコメントの内容について参考になればと思い書きます。
私は基本的に登山は自己責任ですべきもので、自信が無ければガイドを雇えば良いと思います。
私の知る限り涸沢と穂高岳山荘では県警や山荘の方々が大部分の登山者に声をかけて、指導と助言をされてます。
ただ連休の涸沢では数千人の登山者が訪れ全員に助言するのは不可能と思います。
30年前穂高岳山荘からアイスバーンのあずき沢をスキーで降る時山荘の方々が、私がザイティングラード下部に着くまで見守って下さいました。遭難事故に対する山荘の方々の気持ちは偲ばれます。
私達素人は山の機嫌が悪そうな時は登山は控えるべきだと思います。

Hachiro URL 2015-05-08 Fri 07:17:54

コメントありがとうございます。

ご指摘の件につきまして、少しぼくの言葉と説明が足りていなかったようです。
実際には今連休にハシゴ上でルートを外れている方には大声でその旨を告げ、正規ルートへ戻っていただいた方もおられます。
ただ写真に撮っている状況は、既に上部にいる方が下り過ぎていて雪の斜面に移るにはかなり微妙なトラバースとなってしまい、声をかけることでむしろ落石の危険が増すことが考えられます。
つまり雪の斜面の下山に誘導するには、その方が岩峰から降り始めた段階で声をかけねばならず、そのためにはかなり前段階から注意して登山者の方の動向を見ている必要があります。
写真を撮ったときには、ぼくはその降り始めを見ていませんでしたので既に声をかけることが出来なかった次第です。

それと雪壁に誘導することそのものにも少し逡巡することがありました。
それは実際に雪壁での小さな滑落を数件見聞きしていましたので、そのリスクも考えてしまっていたのです。

なので5月3日の岐阜県警山岳警備隊の常駐以後は、ほぼ一日中隊員にルート取りを監視してもらって下山路の誘導も行っていただきある程度の成果もあったと思います。

事故が起こる前に対策を成せ、というのは仰るとおりで、ぼくも遭難に接する度に強く思う次第です。
ですので私たち小屋番も指をくわえてルートを外すのを黙認していた訳でもなく、連休前にスタッフが正規ルートを登り降りしてトレースを付け、雪壁上部の下降地点にはそれと分かるよう下降支点に目立つ捨て縄もセットしておりました。
また雪壁下の転落防止ネットにモッコをかけるなどの処置も行っております。

ただそのような処置で全ての登山者の方の安全を確保することが叶わぬことであることも事実です。

我々が直接登山者の方へ口頭で指導なり注意を行うというのはかなりデリケートなことであって、
登山者の方は皆それぞれ、その経験、技術、体力、考え方、感じ方に違いがあります。
さらには山や自然の計り知れない状況変化が存在する中で、他者への的確なアドバイスを行うというのはなかなかに困難です。

なのでその折々に思ってはいても口に出せなかったことを、こうして駄文にしたためているのだとご理解ください。

この度のお言葉を叱咤激励として、またこれからも登山道補修や指導標、各支点の整備などを微力ながら行ってまいりますので、今後ともご指摘・ご指導のほどをよろしくお願いいたします。


穂高岳山荘  宮田八郎 拝

URL 2015-05-08 Fri 06:57:14

>なぜ、危険と思いながら写真を撮りながら記事を書かれるのでしょうか?
>これから続く登山者に対する注意喚起としてのブログ記事も重要とおもいますが、危険と感じたその瞬間の安全を、写真を撮って傍観されるのもいかがかと思います。
何々しながら、傍観しながら、記事を書いたのではなく、後日振り返りながら考えたことを書いたんだろ。
わざと恣意的なコメントをしてるのか。読解力がないのかな。

>危険と思われるのであれば、拡声器や無ければ大声で注意喚起をされるなり、梯子下でこれから登る登山者に注意をするのも必要と思います。
まず、大声は届かない。そして特に集団で登る登山者達ほど小屋番の言うことなんか聞かない。
そして、みんな落石しないように気をつけているが、下手くそなので落としてしまうだけ。
口喧しく注意喚起を続けても農鳥のおやじさん等のようにクズどもに蔑まされるようになるだけ。

>ブログでその一瞬を憂うのであれば、そこにいる登山者に対しての口煩いまでの注意喚起が必要と思います。
何かを憂うことで、何かをする必要が生じるのであれば、
ブログの記事を見て憂いを思ったことにより、コメントする以外の具体的な行動をしてください。
せめてヤマレコや2chで注意喚起してきてください。
落石する下手くそは山に登るなと、アク禁になるまで主張してきてください。

>小屋番にそこまでの義務はないとは承知しておりますが、後続に訴える前に今いる人たちに対す憂慮も必要かもしれないと思いながらコメント致します。
気をつけるように張り紙くらいはしても良いかもしれませんが。

URL 2015-05-08 Fri 00:02:23

こんばんは。

記事を拝見し、少し疑問に思いコメントします。

なぜ、危険と思いながら写真を撮りながら記事を書かれるのでしょうか?
危険と思われるのであれば、拡声器や無ければ大声で注意喚起をされるなり、梯子下でこれから登る登山者に注意をするのも必要と思います。
これから続く登山者に対する注意喚起としてのブログ記事も重要とおもいますが、危険と感じたその瞬間の安全を、写真を撮って傍観されるのもいかがかと思います。
事故はその一瞬でおこります。それは承知しております。
ブログでその一瞬を憂うのであれば、そこにいる登山者に対しての口煩いまでの注意喚起が必要と思います。

小屋番にそこまでの義務はないとは承知しておりますが、後続に訴える前に今いる人たちに対す憂慮も必要かもしれないと思いながらコメント致します。

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